「空飛ぶタイヤ」を観て
「空飛ぶタイヤ」を見て
私の立場で、これを書いてよいのか、、、どこかで公表できるのか、、、悩むところだが、今の気持ちを記録しておくべきと強く思い、記しておく。
実はホープ自動車のモデルとなった会社とは、少なからず、長期にわたり接点を持ってきた。
まず、まさにタイヤが空を飛び死者を出した2度目のリコール隠しの責任を取り辞任した当時の社長さんとは、日本経済バブル絶頂期であった1989年、アメリカでJV社を立ち上げ責任者として赴任されていた時、現地工場でお会いしてお話を伺ったことがある。その時、まだ工場が稼働して半年もたっていないのに、社内で社員から訴えられている案件(雇用条件、差別、ハラスメント等)が三桁に上り、それらの対応で手一杯で、他の仕事をする時間がないと嘆いておられたのを鮮明に覚えている。のちに、リコール隠しで謝罪されている姿をテレビで見た時、「アメリカでの経験を考えると、隠したくもなるかもな」と何となく思ったことを覚えている。もちろん、事実は許されるべきものではないのが言うまでもないが、、、。
テレビで見たと書いたが、実は、この時、コンサルタントとしても関わっていた。2000年代初め、外資が入り再生を試みていた最中に、例の空飛ぶタイヤ事件が起こったのだが、この時、親会社に雇われて本社に足を運んでいた。この会社どうなってるんだ⁈と思ったことを今でも鮮明に覚えている。実は“この会社腐っている!”と思っていた。正にタイヤが空を飛び死者を出し、他にもタイヤシャフトから火を噴く事故などが複数報告されていた時期、本社の対策会議(オープンになった後なので、“T会議”ではありません!念のため。)に末席で入らせてもらっていたことがある。確か当時の取締役経営企画部長など、かなり上の方々が参加していた会議だった。何と、そこで、対策を考えるべき会議で、彼らからは、責任逃れや犯人捜しのような言葉ばかりが飛び交っていたのだ!「あの時、XXXしなかったのは誰だ?」「だから、俺は反対しただろう!」というような会話が飛び交っていたと記憶している。私は内心「人が死んでいるんだぞ!わかっているのか?!」と腸が煮えくりかえっていたのを覚えている。今なら、声を上げていたと思うが、、、当時、真面目な若者にその勇気はなかった。もうひとつ鮮明に覚えているのは、親会社から派遣されて来ていたドイツ人が、PwCオフィスに来た時にPwCの同じく欧州人パートナーと「また、昨日も一台火を噴いたよ!もうやってられないよ!」と笑いながら話していたを覚えている。この人たちもダメだ!と思った覚えがある。ただ、冷静に考えると、本社からの役員らは、その時点でもう見限って、手放すことを決めていたのだろう。
この頃、他からも色々耳に入った。トヨタとホンダの友人が、同じことを言っていたのを覚えている。「そもそも、あそこはBtoCの会社じゃないんだよ。親がBtoBだし、もっと言えばBtoG(政府)の会社だから、その文化なんだよ。BtoCのビジネスは無理なんだよ」日経の人からは、役員会で講演を頼まれ、外の世界から自社がどう見られているかをストレートに話して欲しいと頼まれて行った日経の自動車業界担当記者が、講演中に「何で聞屋ごときに、そこまで言われなくてはいけないんだ!」と役員から怒鳴られたという話も聞いた。その人も、あの会社はもうだめですよ、と言っていた。中の人(辞めた人)から、「あの会社は、もう社内でお互いを信じられなくなっている、自分たちの車は好きなんだけど、もう会社を愛せなくなっている」という話も聞いた。
それから、10年以上経った今、お付き合いをしながら思うのは、凄く変わった部分と、やっぱり変わっていないところの両方を感じる。その後も何度も不祥事が起こり、その都度、内向きな仕事ばかりになり、文化も完全に内向きになってしまった。自分たちから何かを起こそう、やろうという気概は見られず、全てが受身で他責になってしまう。これは不祥事やリコールを起こしが企業に良く見られるパターンだ。パリダカを制覇した車を作っていた会社のイメージがない。それでも、過去責任を押し付けられてきたにも関わらず、技術者が自分たちの技術に自負を持っているのが見られると嬉しくなる。一所懸命前向きな話をしようと思っても、過去を引きずりネガティブ指向になりがちなところで、技術の話になると皆の目の色が変わる。まだまだやれる証だと感じる。
2004年(例の事故リコール時)から2016年(燃費偽装)までの12年より、新たな同業資本が入ってからの1年の方が変わっているとも思う。前向きになった。特に新たなグループ会社との接点が多い技術や製造の管理職の意識が変わっている。発言が自責になってきたし、何よりポジティブで、前向きな発言が増えた。もう一度、自分たちで、良い車を作りたいという気持ちが見える。お願いだから、この流れを本社が足を引っ張らないでもらいたい(変革時に、現場のやる気を本社が殺ぐのは良くある話)。親会社の母国政府の問題もあり、今後グループ組織がどのようになるか不明瞭だが、3年後に“変わったじゃん!”と皆がいう状態を真に期待している。(私なりにエールのつもりで書きました)