同一労働同一賃金議論の本質

投稿者 aas 日時 2021年4月25日

『同一労働同一賃金』。どのくらいの人が自信をもって説明できるだろうか?企業人事の人だけでなく、弁護士でもその説明に??と思うことが多い。同一同一問題は、簡単ではない。そして、といても重要。

最近、時を同じくして、以前からお世話になっている先生方から2冊の「同一同一」本が出た。
それぞれ切り口は全く異なるが、共に単なる賃金論ではなく、”日本の人事”を今一度整理し、考え直させてくれる素晴らしい専門書だ。


『同一労働同一賃金』。実は多くの人が分かっていない。そもそも、同一労働って何なの?目に見える仕事(作業)が同じということではない。もちろん、勤務年数の話でもない(でも関係はある)。昨秋、複数の同一同一判決がニュースで注目されたが、どうも新聞やTVでの伝え方も曖昧でおかしいなところもあった(明らかに間違っている報道もあった)。

昨年、最も注目された同一労働同一賃金が争点になったメトロコマース案件を担当された近衛弁護士も登壇された、倉重・近衛・森田法律事務所主催の出版記念ウエビナー「日本版 同一労働同一賃金の理論と企業対応のすべて」出版記念ウェビナーが昨夜あり、参加した。そこで、改めて考えたこと、確認できたことで重要と思ったことを記しておく。

* 同一労働同一賃金論議は、単なる賃金水準の公平論や雇用の話ではなく、今一度、企業が『何に報酬(給与、賞与、退職金、各種手当、各種福利厚生)を払っているのか』をちゃんと考えるよい機会だ。実際、何を評価し、何に対してどの報酬がどのように決められ、払われているのかをしっかり説明できる企業人事は少ない。これが問題の根源であり、本法律はそれを問うていると理解すべきだろう。

* 時を同じくしてジョブ型議論が盛んだが、この関連性を間違えてはいけない。確かに同一労働なら同一賃金であるべきはジョブ型人事に通じることろがあるが、多くの欧米アジア諸国で運用されている本来のジョブ型人事で語られる同一労働同一賃金は、日本以外の国では労働市場が存在しているために、同一労働(職務職責)であれば、その労働市場価格から同一賃金になる(そうしないと人が採用・定着しない)という、需要と供給の市場原理(”外部市場競争力”)の話だ。それに対して、今回の日本の同一労働同一賃金議論は、同一組織内で同一労働(職務職責)なら同一賃金にすべきだという”内部公平性”の話だ。これは、全く別物。
そこで、厄介(気を付けなくては)なのは、派遣やアルバイト/パートのような雇用形態ではある程度労働市場原理に基づき賃金水準が決まっているのに、(そちらを無視して)市場原理関係なく企業のエゴで決まっている正社員賃金を軸に非正規社員賃金の水準調整論議が行われることだ。本当にそれが正しいのか? 労働市場の活性化にはまだ時間がかかるだろう中で、ここは、これからの議論の中で、要注意ポイントだろう。

もう一つ、昨夜のウエビナー本番後のZoom飲みの雑談の中で気づいたことがある。

* 「報酬の市場水準調査があっても、自社の水準も入った(調査に参加している)調査結果を見て、妥当だという判断を皆がしているわけで、市場水準比較をしても報酬水準は上がらない」という話がされていた。私の欧米企業と付き合ってきた感覚では、この話は驚きだった。市場水準調査結果と照らし合わせて、自社の水準が50%ileならいいかではなく、75%ileや80%ileに引き上げて社員モチベーションを上げ、結果、それ以上の成果(収益)を出すということも目標に、賃金を引き上げるアグレッシブな企業が必ず複数ある。そのような企業に引っ張られるあめ、市場調査があると賃金水準は上がるというのが、労働市場の活性化した世界では通説なのだ。労働市場の有無の違いによる個人の意識の違いといえるだろうが、企業と個人が共にこの発想では、グローバル市場で強い企業にはれないのではないか。

いずれにしても、昨夜、近衛先生がおっしゃっていたように、これは一過性のモノでも、簡単に答えの出るものではないが、将来振り返ってみると、日本の人事のひとつの分岐点になっているだろう、というのは強く同意する。