メンバーシップ型?Job型?それともアカウンタビリティ型?  働き方改革、本気で考えないとまずくないですか? (1)

投稿者 aas 日時 2020年8月3日

(メンバーシップ型編)

久々の本業?人事ネタで書きます。
コロナ禍によるWFH/リモートワークがキッカケで、最近、急に「ジョブ型」雇用という言葉がやたらと出てくるようになった。私の周りでも、別の話をしていても「やっぱり、ジョブ型ですかね」という話になる。使われ方としては、リモートワークになると常に隣にいてちゃんと働いているかどうかをマネジャーが見ていることができず、何時間働いているかも管理できないので、役割職務を明確にし、評価は成果で行うジョブ型にしようというような流れだ。また少し前から引きづっていた、需要が供給を上回るデジタルAI人材の確保や働き方改革プレッシャの中での時間基準人事管理の限界なども背景にありそうだ。ただ、30年前から、この課題に携わってきた人間としては、正直、無茶苦茶違和感がある。ジョブ型がダメといっているわけではない。結果としてジョブ型に近づくだろうと思っているし、間違っているとも思っていない。ただ、そもそも、リモートワークとジョブ型は本来全く関係ない。多分、元来の欧米式ジョブ型ではない日本式ジョブ型?を模索始めた過渡期の議論だとは理解しているが、議論をする前に、ジョブ型とは何かをちゃんと理解しておきましょうという話だ。

 「メンバーシップ型」雇用と「ジョブ型」雇用とは何なのかから説明する。そこで最初に抑えておかなくてはいけないのが、メンバーシップ型とかジョブ型というのは法的に定義されているモノではないということだ。あくまで属性であり、明確な定義も、両者の明確な線引きも存在するものではない。従って、ここで書くにはあくまで私個人の見解である。が、日本では殆どの方がジョブ型や職務等級という言葉さえ知らなかった30年前から、研究し、日本企業の導入にも少なからず携わってきた人間なので、間違ったことは言っていないと思う。(但し、法律家ではないので、言葉使いや表現の正確さについてはご容赦願いたい。)

 まず、メンバーシップ型だが、私なりの言葉で簡単に言うと、メンバーシップ型とは就職ではなく「就社型」、ジョブ型とは「就職型」の働き方をいう。日本では就職という言葉が一般的に使われるが、実は就職ではなく就社していることは既知だろう。メンバーシップ型はその名称からイメージしやすいゴルフ場やスポーツクラブを考えてみてもらいたい。既に全会員に共通して適用される会員規約の存在する組織があり、この規約を順守する約束でメンバー登録し“組織に属する”のがメンバーシップ型だ。組織と個人が対等な個別契約を結ぶものとはいえない。企業におけるメンバーシップ型は日本特有、日本型雇用と呼んでも差し支えないだろう。既存の同一条件で一括就社し、転勤や配置転換も含めた業務命令に従うことが前提で、キャリアの最終期まで雇用が守られる、“会社組織に属する”のがメンバーシップ型だ。メンバーシップ型では、メンバーは平等であり、同一ルールに従うがための不自由もあるが、ルールを守っている限り、組織はメンバー(社員)を平等に守ってくれる、という前提に立っている。

もう少し、具体的に話そう。メンバーシップ型雇用は就社する。そして会社が個人を業務命令(配属命令)により職に配置する。この時点で、職の選択という視点から、個人と会社は対等な関係ではなく、会社が(業務)命令権を持っている(という雇用契約)。同時に会社が個人を職に配置しているのだから、個人が職を全うできなくても全責任を個人に押し付けることには無理がある。個人が職を全うできるようにサポートする責任が会社にも発生する。同じ理由から、個人の業績を理由に解雇することはできず、他のもっと適した職への配置転換を検討する責任が会社に発生する。職や所属部署が消滅した時も同じで、職がなくなっても一方的に解雇はできない。偶々配属されていた部署がなくなったからといって解雇されたら堪ったもんじゃない。至極当然だろう。よく、日本では解雇ができないとか、社員に自由がないとか、好き勝手な議論を聴くが、個別事象での議論はナンセンスであり、トータルでシステムが成り立っていると考えなければならない。報酬に関しても同様で、個人の選択ではなく、会社の命で配置配属が変わる度に報酬が変わる職務給制度など本来不可能だ。だから、メンバーシップ型日本企業においては、ジョブ型を軸とした真の職務給の運用は難しく、結果として職位給とならざるをえない。(もちろん、労働市場が希薄なための職務毎の市場価格が存在しないという大きな理由もある)また、終身/長期雇用を前提としたメンバーシップ型企業では、長期にわたり多様な職務に従事し従業員に活躍してもらうために、潤沢な研修を全社員に同じように提供し、会社が社員を育てる意識が強くなる。

結果として、メンバーシップ型雇用の運用では、従業員の確保が容易x従業員の雇用は守られる、雇用に関する会社の自由度が高いx従業員の自由度が低い、会社は個人に責任を問いにくいx個人の自己責任意識が希薄化する、従業員の全体的底上げが容易x個性の強いハイパフォーマーが生まれにくい、社員に対し公平というより平等な扱いになる、個人と会社のもめごとが少ない、そして、終身/長期雇用になり結果年功的人事運用が生まれるというような特徴がある。また、マクロ的には、雇用が安定し失業率を低く抑えられる、などの特徴もある。
(長くなってきたので、ジョブ型は次回に)