これからの働き方&生き方 ~ジョブ型議論を越えて~(2)

投稿者 aas 日時 2020年10月4日

(つづき)
当り前の話だが、自由と責任は一体であり、個人に自由が増えるとそれだけ自己責任が厳しく問われることになる。ジョブ型雇用には、本当の意味での厳しさが待ち受けていると考えるべきだろう。ジョブ型に近づくと、仕事は作業ではなく、役割責任と同義語となり、その役割責任を自分の判断で引き受けるという、ある意味“仕事”と契約する働き方になり、個人にとっては逃げ場がなくなる。今までサラリーマン/ウーマンと呼ばれていた人達が、ジョブ型では個人事業主が請負契約を締結するような働き方を求められるようになる。働く時間や場所は自由になる一方、結果が求められ、頑張ったからでは許されなくなる。

最近、ディズニーランドでダンサーの出番が減り、ダンサーが一般キャストの仕事転換か雇用終了の選択を迫られているニュースがあった。これを、可哀そう或いは会社の雇用確保努力が足らないかのような報道も耳にしたが、彼女たちはダンサーというジョブ型雇用契約をしているわけで、仕事の場がなくなると当然の対応であり、他の仕事の選択肢を用意してくれる会社を評価こそせよ批判するには値しない。それがジョブ型雇用だ。私の見聞きしてきた例をいくつかあげよう。

約25年前、PwCに入社してすぐにアメリカ人コンサルタントと客先に営業に出かけたことがあった。その時、クライアントのリクエストは我々が経験したことのないモノであったが、クライアントに経験があるか問われると、同僚のアメリカ人コンサルタントは即座に「はい。大丈夫です。経験があります。お任せください」と答えたのだ。私は驚いて、帰りに彼に大丈夫かと聞くと、彼は「やるしかないだろう」と答えた。その後、彼は全精力をつぎ込んで、勉強もしながら、この自己の判断で獲得した仕事をやり遂げた。他人以上の仕事を自身の判断で獲得し、自己責任の上にやり遂げて評価を得る。失敗するとアウト、成功すると評価され昇進に結びつく。こうやってキャリアを自分で築くのがジョブ型被雇用者か、と思い知らされたものだ。

時間管理型の働き方だと生産性高く時間内に仕事が終わる人より、生産性低く残業になる人が残業代をもらいおかしい。ジョブ型になると生産性が評価され、生産性の高い人は毎日定時に帰っていても高い評価がされ、昇進も早くなるという人がいる。私の経験からこれは違う。真のプロフェッショナルが求められ、アウトプットで評価されるようになるジュブ型の世界では、生産性が高くかつ長時間働き、他人の何倍も成果を上げる人が評価され昇進する。考えてみて頂きたい、Steve JobsやBill Gatesの働く時間が短かったはずがない。私のPwC時代にも、グローバルでHRコンサルタント約1万人のトップだったイギリス人パートナーは、毎週のように海外を飛び回っていが、機内でPCを開けていない姿を見たことがないと言われていた。実際、彼のメールレスポンスは驚くほど速かった。

ただ、自分で時間をコントロールするということは、場所と時間の決められたメンバーシップ型と働き方が異なる。私自身、残業をどのくらいするかとか、休暇をどのくらい取るか聞かれて答えに困る経験が良くある。365日でPCを開かない日は殆どないが、トータルで働いている時間は、決して、会社勤めの方々より長いとは思わない。Work and Lifeではなく、Work in Lifeなので、厳密に時間管理することが難しいが、やらなくてはいけない仕事が沢山ある時、やりたい仕事が沢山ある時には沢山働き、そうではない時、或いは自分で休みたい時には、自分で時間をコントロールして休みを増やすのだ。

昨今、一部の人達が「日本もジョブ型であるべきだ」とか、「ジュブ型の方が人は幸せになれる」というような発信をされているが、全くもってナンセンスだ。また、そのトーンが気になる。ジュブ型とかメンバーシップ型というのは、企業の管理手法でありマネジメントスタイルの話だ。最終的にどちらが会社にとって企業収益や企業成長に繋がるかという方法論の話だ。個人が人生の一部である職業人生/キャリアの中で、どう満足感を得るか、どう幸せを感じるかと、メンバーシップ型かジュブ型のどちらが良いかという議論は全く別物だ。どちらが良いかは会社が考える話だ。

私は経営コンサルタントの端くれとして、経営に助言をしてきた立場から、世の中の環境や会社にとっての社員の働き方を考えると、ジョブ型の方がフィットするケースが増えていると思うし、ジョブ型のマネジメントスタイルに変えた方が良いという助言をするケースは多い。また私自身、ジョブ型の働き方の方が好きだ。ただ、それと、個々人がジュブ型の方が良いかどうか、ハッピーになるかどうかは別問題だと思っている。メンバーシップ型で力を発揮し、メンバーシップ型の方がハッピーな人はいるだろうし、結果としてメンバーシップ型で力を発揮できる組織もあると思っている。

また、これらは二者択一ではない。欧米ではジョブ型の限界も見えてきている。新しい働き方には新しいマネジメントが生まれてくるべきだ。前ブログで書いたアカウンタビリティ型もその一つだ。いずれにしても、この議論はしばらく続くだろう。この議論が正しく、制度論ではなく、働き方改革論として続くことを期待している。