これからの働き方&生き方 ~ジョブ型議論を越えて~(1)

投稿者 aas 日時 2020年10月4日

今回のコロナ禍は組織人事に大きな課題を投げかけた。オンラインやテレワークと言われる働き方の変化だけではなく、人事管理のあり方、人事制度のあり方、組織と人の関係性にまで影響を与えている。そんな中、ジョブ型だ、メンバーシップ型だという議論が出ていることに、“ちょっと待って!そんな単純じゃないよ!”というは前回書いた。が、今回は、そんな方法論入口ではなく、ニューノーマルで“働く”の何が変わろうとしているのかという入口から考えてみた。

通勤がなくなり、在宅勤務になって、初めて「今までは仕事の場と時間が強制的に与えられていた」ことに皆が気づきだした。在宅勤務というのは、いつ、どの程度(時間x量x質)仕事をするかをある程度自分で判断できるようになる。或いは自分で判断しなくてはいけなくなる。(これはワーケーションでも在宅以外の自由勤務は皆同じ)また、これまで、多くの昭和型サラリーマンが強制的に与えられた仕事の場所と時間に束縛され、そちらが全てで優先される生活だったことに気づいた。家族との時間、趣味の時間、自己学習や自己啓発の時間などは、仕事の空いた時間或いは強制的に調整して空けた時間にスケジューリングするものだったことに気づいた。これが、突然、最初から同列の中で、どうバランスをとりスケジューリングするかを自分で決められるようになったのだ。

この前提にのらない働き方をしていた私にとって“Work Life Balance”という言葉がしっくりこなかった理由がわかった。多くの働く人たちが、場所と時間を強制的に決められた“Work”と自分で自由に場所と時間を選べる“Life”のBalanceをとることに苦慮し悩んでいたのが“Work Life Balance”だったのだと。ではこれからはどうなるのか?これからは、全てが同じ土俵の上で、自由に選択できると同時に自己管理が問われる、“Work in Life Self-Management”の時代になるということだろう。

これは、今までの戦後昭和型サラリーマンにとっては、入社から退職するまでの職業人生では経験のないことで、実はとてつもなく大きな意識改革を求められている。これからは、会社から個人への仕事の与え方も変わることになるだろう。「時間あるなら、これやってくれる。やり方は先輩に教わって」から「いつまでに何を仕上げて欲しいんだけど、やれるかな。やり方は任せるから」という仕事の与え方に変わってくる。仕事を与えられるから、仕事を請け負うという形に変わる。受動から能動に変わる。

このように、働き方が変わる中、従業員の就業に対する意識が変わり、結果、今までの組織と人の関係性や人事管理のあり方が根本から問われることになる。その中で、出てきたのがジョブ型議論だ。個人が会社に“属し”、会社から与えられた場所と時間で、与えられた仕事をこなしていた働き方(メンバーシップ型)から、個人が自身で働き方を選択し、会社に対する貢献度合いをもある程度選択するような働き方になる。結果、今まで伝統的に行われてきた人事管理手法は通用しなくなる。

まず、時間管理の概念が崩れる。在宅勤務に対して会社が就業を時間で管理する意味は薄れる。もちろん、場所を会社から自宅に変えるだけで、監視管理を強化し、時間管理を行うという方法論もあるだろうが、それで生産性が高まるとは思えない。場所と時間を共有しなくなると、頑張っているかとか、気遣いができているかとか、真面目に取り組んでいるかといったような、態度観察や情緒的な態度評価は不可能になる。これは皆が既にオンライン生活で感じていることであり、それにより「信頼関係がないとマネジメントができない」などという言葉をよく聞くようになっている。会社として何を管理するか(管理ではなく純粋に評価だろうが)と考えると、結論は明白で、与える仕事の役割責任と成果ということになる。これが、まさにジョブ型ということだ。

実は、このようなジョブ型人事を正面から捉えて、働き方の議論から人事制度の見直しを議論されることは今まであまりなかった。平成の初めに成果主義が議論され、アメリカからジョブ型輸入が起こったときも、実は背景には、年功で毎年上昇する人件費をどうコントロールするかという大きな裏テーマがあり、ジョブ型先にありきで議論が進み、働き方を制度に合わせるという全く逆のプロセスをとったことで無理が生じていた。(今回もジョブ型にすることでバブル世代の人件費制御になるという議論をしている企業のあるようだが、論外である。もう同じ失敗の繰り返しは止めて頂きたい)

在宅勤務が一般化し、人事管理がジョブ型になると、個人が自分で仕事や働き方を選択できるようになり、一見自由になり社員にとっては楽なようにも見える。事実、通勤がなくなり、好きな時間に働けるというだけで時間の自由度は大幅に増える。週4日詰めて働き、週休3日にするとか、所謂時短勤務に自分でコントロールするということも可能になる。通勤がない分、時間に加え体力的な負担減も大きく、これは子育てや介護を抱えている人にとって利点となるだけでなく、日本の大きな課題である高齢者雇用にもとっても解決策の一つとなるのではないだろうか。
(ジョブ型人事詳細については、前ブログを参照されたい。ただ、実際の適用には、時間管理の問題を含め、日本の労基法等クリアしなくてはいけない課題は多い)