「人」 ~ちょっと思い出から考える“面接はリーダーがすべき”~
私の人生に強い影響を与えてくださった人は複数いる。私の一番の師である元慶應義塾塾長安西祐一郎先生(学問以上に人生の軸を教えて頂いた)、最初に勤めた会社で最初の配属先部長だった川村氏(彼がいないと、私の留学転職はなかった)、学生時代よく行動を共にしたX君(高校中退、少年院も経験していた同歳の彼から学んだことは多い)、そして親、、、。
しかし、たった一度の出会い(実際には2度)だけで、強烈にインパクトを残し、30年経った今でも、その時のことを鮮明に思い出せるのは、彼以外にいない。原田泳幸氏だ。
最近、彼の悪いニュースが流れたことで思い出して書いている。
人生最初の転職面接が原田さんだった。丁度30年前、大学院を修了してアメリカから帰ってきたものの、まだ自分のキャリアプランが見えず悩んでいた時に、ヘッドハンターから最初にかかってきた電話が、Appleのマーケティングマネジャー候補ポジションだった。Steve JobsをクビにしてAppleの業績が急激に落ち込んでいた時だ。その立て直しに、原田氏がApple Japanのマーケティング部長にヘッドハントされてきて、彼が自分の部隊をつくる過程でお声をかけて頂いた。Appleは先が見えない低迷期でもあり、私も同じコンピュータ会社に就職する気持ちもなかったので、お断りさせていただいたのだが、原田さんのことは強烈に覚えている。その後2カ月で、色々な会社の約30名と面接をしたはずなのだが、今でも覚えているのは彼だけだ。
実はこのオファーはすごく悩んだ。その理由は、Appleには行く気はなかったが、原田さんの下で働いてみたいと思ったからだ。その時、40代前半だった彼は、面接の間は始終やさしい笑顔で話されていた記憶だ。しっかりと傾聴をしていただき、かつとても丁寧に会社の説明をして頂いた。ジョークも交えながらとても和やかに話されるのだが「この人は厳しいだろうなぁ。でもこの人の下で働くと鍛えられるだろうな」と思ったことを覚えている。「今、うちに来ると、マッキントッシュが2台ももらえるんだよ。会社に一台と、家にも一台おけるんだよ。どう?いいでしょう!」と笑顔で言われた時の楽しそうな顔を今でもはっきり覚えている。
Appleの面接はこの一回だけ。当日は隣にもう一人座っておられたが、面接は最初から原田さんとの一回だけだったが、その後何度もお誘い頂いたと記憶している。それからかなり時間が過ぎて、彼がアップルの社長からマクドナルドの社長に転じられた後、一度だけセミナー会場でご挨拶をさせていただいたことがあった。もちろん、私のことなど覚えておられなかったが、その時のことをお話すると、嬉しそうに私が今何をしているのかを聴いて下さり「しっかり自分の道が見つかってよかったじゃない。頑張って」と言って下さった。
もちろん、ちょっと話したくらいで、人の全ては分からない。でも、どんな人かはわかる気がする。いや、多分そうではなく、真のリーダーは自分がどうな人間かが分かるように振舞われるということだろう。これをAuthentic Leadershipと呼ぶのだろう。本当に採用したければ、面接はそういう人がするべきだ。