コロナ禍から学ぶオーセンティックリーダーシップ
オーセンティックリーダーシップという言葉を耳にするようになって久しい。21世紀になって出てきた言葉でありリーダーシップ理論だが、現在の理論の源は、エンロン事件などで経営倫理が問われた時代、2003年、メドトロニックの元CEOでハーバード大学で教鞭をとっていたBill George氏の書いた論文と言われている。しかし、これを日本語にして説明するのがとても難しい。一般的には「倫理観を重視し、自分自身の価値観や信念をしっかりと理解し、自身の考えや思いに根ざした自分らしいリーダーシップ」というように説明されることが多そうだ。
私もこれまで、グローバルで多様な時代、ICT/DXで変化の激しくスピーディーな時代には、小手先の方法論は通用せず、目先の情報に惑わされない、自分自身の価値観に根差したリーダーシップが求められていると話してきた。しかし、正直、頭での理解で話していたことは否めず、自分自身100%の腹落ちには至っていなかった。これを、コロナ禍が変えてくれた。コロナ禍のもたらした逃げ場のない真のVUCA環境が、オーセンティックリーダーシップの意味と意義を指示してくれた。
VUCA(Volatile (変動的)、Uncertain (不確実)、Complex (複雑)、Ambiguous (曖昧))Worldの時代という言葉も、ここ10年使ってきたが、いよいよ本物がやってきたと理解させてくれたのがコロナ禍だ。今春の国会を思い出してほしい。緊急事態宣言を出すかどうかの議論がされていた時、野党が当時の安倍首相に対し「その根拠は何ですか?その根拠はどこにあるのですか?!」と質問していた。「根拠?!何言ってるんだ?その質問がナンセンスだろう?!」と思った方も多かったのではないだろうか?根拠があったら誰も悩まない。根拠がなくて、正解がないから、世界中のリーダーが悩んでいた。世界最高峰の専門家が今日Aと言っても、明日にはBに変更せざるを得ないかもしれない。まして1か月後どうなっているかなど、誰にも分らない。これが真のVUCA Worldなのだ、と教えられた。そして、リーダーは、この正解のない、根拠のない中で、意志決定(Decision Making)をしなくてはならない立場に立たされた。今までと世の中が、ステージが変わった。
解が存在し、解を求める戦略を考えられた時代、人は人の(過去の)“実績”についていった。しかし、将来が見えず、解のなくなったVUCAの世界では、人は“人”そのものについていく。私が若かった時代、もちろん人の好き嫌いはあったが、過去に高い実績を上げている上司、成功経験を持っている先輩に学び従い、ついていった。何の経験もない自分より、実績や成功経験を持った先輩の方が正解に近いし、そんな人と働くことで学べる時代だった。間違いではなかった。今の新入社員が同じように思うだろうか?上司や先輩の実績や成功談を聴いて、「凄いですね」と客観的には思うかもしれないが、それが将来の成功に繋がるとは思わないだろう。「え、それって、将来の成功と何か関係あるんですか?過去の成功って、これからのことに関係ないですよね?」と思うだろう。VUCAの時代、ある意味、それは正しい。リーダシップが変わっている。
今の時代、これからの時代、人は人の実績にはついてこない。人は“人そのもの”について行く時代になった。この人と一緒に働きたい。この人について行ってみよう。この人とならやっていけそう。この人なら信用できそう。この人と働くと楽しそう。この人と一緒なら自分が成長できそうな気がする。人はそんなリーダーを求めている。過去の実績を振りかざす“俺についてくれば大丈夫”的なリーダーの時代は終わった。これからのリーダーは、自分で自分自身を理解し、自分自身をマネジメントし、自分自身をさらけ出せる、そんな人間力が求められている。自分自身の価値観を理解し、強み弱み、得意不得意を理解する。自分自身が何を目指し、何をしたいのか、どうなりたいのかを理解し、それを目指し行動し、それを他人に語れる。そんなリーダーが求められている。周りから見ても、どんな人かが良くわかり、それが魅力的に映る、そんなリーダーが求められている。コロナ禍が、オーセンティックリーダーシップとは何かの理解を深めてくれた。
<山本の定義するVUCAの時代をリードできるオーセンティックリーダー>
何にでも、①好奇心/Curiosity・Interestを持ち、
②多様性を受容/Diversity & Inclusionし、
その為に、③謙虚さ/Humbleを持ち合わせ、➃傾聴/Active Listeningができ、
その上で、⑤倫理観/Ethicalと⑥公平性/Fairnessに基づいた判断ができ、
それが常に、⑦透明・素直/Transparentである
また、世の中の変化に常に敏感で、⑧順応性/Adaptability・Flexibilityがあり、⑨俊敏な変化への対応/Agileができる
そして、その判断と行動の裏には常に不変である、⑩ビジョナリー/Visionaryが存在している(Visionを持っている)