やっぱり、組織は小さい方が良い?
昨年、数万人数兆円規模の大企業とも、100名~200名の中小企業とも、複数お付き合いさせていただきましたが、一緒に仕事(プロジェクトや研修)をしていて、中小企業の方々との付き合いの方が楽しく感じられることが多かったように思います。その理由は簡単で、中小企業の社員の方が、やる気があるというか、“熱い”ケースが多かったのです。もちろん個人差はありますが、中小企業の人たちの方が、何事も自分事に落として考え、深い議論ができたからだと思います。議論が深くなり、熱くなります。
これは、中小企業の社員が優秀だとか、人材の能力の違いではなく、環境の違いでしょう。例えば、大企業の社員の方々からも、海外現地法人勤務の方が良いという声をよく聞きます。これは、多くの場合、夕方早く帰れるとか生活環境の理由ではなく、色々口出しをする上司が少ない、自分の裁量責任で仕事ができるという理由です。まさに、裁量権であり、他に頼る人も少ないという環境が、モチベーションに繋がっているのでしょう。中小企業では、「この技術は自分にしかわからない」「この客は私でないと対応できない」「私が間違うと会社が大変なことになっていまう」というような、“やりがい”につながる環境が、常日頃から整っているのでしょう。
もちろん、大企業では「俺がひとり変わったところで、会社に何も影響はない」と思ってしまうのに対し、中小企業では「僕が頑張ると会社が変わるかもしれない」と思えるというサイズの違いもあります。当り前ですが、これにより、ビジネスを自分事に落として考えることができます。
正直、昔からいうところの良い大学を出て良い会社(大企業)に入られている方々の方が算数はできますし、論理的に話を進めたり、ロジカルにまとめることは上手です(そうでない方もおられますが)。ところが、大企業で仕事をしていると、どうしても皆さん、綺麗にまとめることや(上司の求めている)正解を出すことに尽力されます。多分、自分では気づいておられないと思うのですが、一所懸命議論しているつもりでも、何が正しいか、どうあるべきか、或いは自分がどうしたいかではなく、どうするのが正解か、もっと言うと、何を求められているのかを探り、綺麗にまとめる方向に議論が進みます。全く“個”が見えないこともよくあります。ぶっちゃけ、これは面白くありません!面白くないだけでなく、多様性を受容した上で、考えをぶつけ合う議論が求められるグローバル環境などでは、これはかなりまずいでしょう。また、このような状況は、大企業というだけでなく、規制業界に属する企業/ビジネスで、どうしても上を向いて仕事をするようになってしまう会社に強い傾向のようです。
他方、中小企業ではどうかというと、もっと本質に迫り、どうすれば買ってもらえるか、どうすれば気に入られるか、自分はどうしたいか等をとても素直に議論されるのです。時には、与えられた時間制限など考えず、脱線もしながら、好き勝手な話をして盛り上がります。時間的な議論の生産性は高くないかもしれませんが、その好き勝手な議論から、新たな気づきが得られ、新しい発想が出てくるのです。議論の内容と目的に応じて、両方のパターンの使い分けが必要かもしれません。が、求められている解を求める議論や綺麗にまとめることを目的としたワークからは、何も新しいアイデアは生まれません。ベンチャーでイノベーションが起こり、大企業では変革が起こりにくい原点はこんなところにもあるのかもしれません。
これを解決するのは簡単ではないかもしれません。先に書いたように、これは個人を攻める問題ではないでしょう。大きな組織になればなるほど、当然、組織構成要素(社員)には明確な役割が与えられ、組織やビジネスは“仕組”で動きます。よく昔から「社員は歯車ではない」と言いますが、ある意味それはウソだと思っています。歯車が勝手な動きをさえると組織は成り立たなくなります。製造現場などでは明らかです。対して、組織単位が小さければ小さいほど、個人に臨機応変な対応力も求められ、ビジネスの成果や成長は個に頼るところが大きくなります。決められた歯車ではなく、アメーバのように動くことが求められます。
現場の組織体は小さくすべきでしょう。小さくするというのは、人数だけの問題ではなく、権限委譲をするということです。ビジネスに関しては責任と権限を現場組織に委譲し、本社部門や事業本部の企画管理部門はビジネスプロセスには極力口を出さずに、ガバナンス機能に徹する。これにより、判断と行動が早くなると同時に、現場にやりがいが生まれます。もちろん、同時に現場に責任を明確に問う体制も求められることになります。人事的に採用から報酬決定まで権限を持つ、と同時に結果責任を明確に問われる外国企業では、日本企業と同じ組織図でもそこが違っています。自由度とともに権限と責任を小さな組織単位に委譲し、本社からはガバナンスを効かせ、明確な結果責任を問う。結果として欧米型かもしれませんが、モチベーション、イノベーション、スピード、色々な観点からも、小さな組織体を模索してもよさそうです。